作品名:
作品概要
物語の主人公、ルビーウルフは盗賊団で暮らしていた。
幼い頃にある事情によって盗賊団に託された彼女は、実は神国グラディウスの王女。
ルビーウルフとは盗賊団での名前であり、本名はもっと長いのだが、あえてルビーウルフという名前を持っている。
ある日盗賊団が神国グラディウスに襲撃され、仲間の多くが殺されてしまう。
ルビーウルフはそのことを憎みながらもグラディウスの女王として君臨することになる。
第十七回ファンタジア小説大賞準入選の作品で、ジャンルとしては異世界ファンタジー。ただし主人公が盗賊の心を持っているという点で異彩を放っている。
世界観としては魔法のある世界に『神国』と呼ばれる大国がいくつか分立して存在している。
その『神国』とは『神器』を持つ国のことを指し、現在までのところ五つ確認されている。
ルビーウルフが信頼を寄せているのは盗賊団時代からの仲間である狼のフロストとケーナ、グラディウスで最も信頼している騎士のジェイド=コルコット、隣国トライアンのミレリーナなど、あまり多くは無い。
特に自国の人間に対しては盗賊団を襲われた過去があるせいか距離を置こうとする傾向にある。
ルビーウルフは一国をまとめる存在であるが、自分の国を『盗賊団』にするといってはばからない。
無くなってしまった盗賊団をけして忘れずに、自分自身を成長させていく物語。
感想・批評
正統派ファンタジーから多少ずれている感じの作品で、主人公が今までのどの作品よりも自由を愛する奔放な性格をしている。
呪文の詠唱などしっかりと設定されているが、呪文の体系については多少甘い部分が見受けられる。
デビューして短い新人だが、文章の出来はかなりよく作られていて、熟練の人と比べても見劣りしない。
物語の運び方も巧妙で、特に主人公が盗賊のせいか周りの風景、気配などの描写は細かい。
あと、個人的に評価が高いのは主人公の感情について上手く書いていると思ったところだろうか。
はっきりと揺れ動く様を書くことは多くないが、細かく読むとそういったものが見えて面白い。
狼達と人間の絡みも面白く、登場回数で数えると三番目くらいにフロストとケーナがランクインする気がする。
複線の張り方もまずまずで、気づかれにくい配置になっているが、作中のギミックに関してはまだまだ改良の余地がありそう。
殺陣の部分は詠唱中心になってしまうため、ぱっと見ると狼のほうが人間より目立っている気がする。
とりあえず最終的に行き着く展開が読めない作品なので読んでいて楽しいものがある(一巻完結としても読めるものが多いため)。
神器はどうなるのか、ルビーウルフは最後に何を見つけるのか。
これからの展開に十分に期待できる作品だと思われる。